第Ⅲ章
新たなる時代へ、そして未来へ
1991年、ル・マン24時間耐久レースでの総合優勝と、ロータリーエンジン搭載スポーツカー、FD RX-7の発売という大きな一歩を刻んだマツダでしたが、その背後には暗雲が忍び寄りつつありました。時を同じくしてバブル景気が崩壊。円高の進行による打撃などもあり、スポーツカー市場は冬の時代を迎えたのです。当時、エンジンの燃費改善を目指すマツダは、ロータリーの高出力を維持しつつ、自然吸気ならではの気持ちよい加速フィーリングの実現につながる、「サイド排気ポート」の開発を急いでいました。1996年には次期ロータリーエンジンのためのサイド吸気ポートの実用化開発が正式にスタート。開発スタッフはエンジンのパワー増強に力を注ぎますが、そのさなか、景気悪化の影響を受け、FD RX-7は生産終了が決定。2002年、最後の生産車ラインオフとともに、ロータリーエンジン生産の灯はいったん消えることとなってしまいました。
FD RX-7
上: 2003年に生産が開始されたRX-8
左下:サイド排気を採用したRENESIS
右下:フリースタイルドアを採用した4ドア4シーター
しかし、そんな中でも、スタッフは新たなロータリーエンジンの開発と量産化に心血を注ぎ込み、開発を続けました。サイド排気ポートの技術は、かつてロータリー四十七士も挑戦しましたが、実用化には至らなかった難しいものでした。開発スタッフの弛まぬ努力の結果、数々の技術問題を克服。2003年、ついに新世代ロータリーエンジン「RENESIS」が完成しました。「新たなるロータリーエンジン(RE)の始まり(Genesis)」を意味する「RENESIS」は、自然吸気でありながら高出力を実現し、燃費や排出ガスのクリーン化についても大幅な改善を実現。その名のとおり、ロータリーエンジンの新時代到来を感じさせました。そして2003年、マツダは念願のロータリーエンジン搭載車RX-8の生産を開始。小型・軽量・高性能というロータリーエンジンの特質をさらに進化させたRENESISが、本格スポーツカーにして4ドア4シーターを備える」というRX-8のまったく新しいコンセプトの具現化を可能にしたのです。ロータリーエンジンはここに、完全なる復活を遂げました。
人と地球にやさしいクルマづくりを考える時、水素燃料が大きな存在となることは、1990年頃からすでに検討されていました。1991年には水素ロータリーエンジンと、それを搭載するコンセプトカーHR-Xをモーターショーに展示しました。ロードスターに水素ロータリーエンジンを搭載した試作車も造られるなど改良が行われ、1995年には水素ロータリーエンジン搭載車の公道走行実験を開始するなど、マツダは確実な歩みを進めていきます。そして2003年、世界ではじめて実用化に成功した水素ロータリーエンジン車、RX-8ハイドロジェンREがついに登場。デュアルフューエルシステムを採用することで高い実用性を誇る一方、クリーン性能とクルマ本来の気持ちよい走りを同時に実現したRX-8ハイドロジェンREは、次世代へつながるロータリーエンジンの在り方でした。そして2006年にはマツダが世界に先駆け、「水素ロータリーエンジン」の実用化・リース販売を開始することとなりました。
RX-8ハイドロジェンREと水素ステーション
上:レンジエクステンダー搭載デミオEV
下:レンジエクステンダー用小型REユニット
さらにロータリーエンジンは電気自動車の航続距離を伸ばす技術にも活用が検討されています。小型・軽量でありながら高出力、かつ静粛性の高いロータリーエンジンのメリットは、電気自動車の分野においても最大限に発揮できるとマツダは考えています。2013年11月に発表されたデミオEVは、トランクスペース下に搭載されたロータリーエンジンのレンジエクステンダーによって、従来の倍となる400kmの航続距離を達成できる可能性をもつクルマです。さらにこの技術と、水素ロータリーエンジンで培った技術を合わせることで、ガス燃料などにも対応した移動型発電機の動力としても活用できる可能性もあります。
このようにロータリーエンジンは、優れた動力性能と環境性能を両立できる高いポテンシャルを持ったエンジンです。これからのマルチフューエル時代に向けて、水素を含む様々な燃料が使用できることや、発電機用としても優れているなど、環境対応エンジンとしても高いポテンシャルを有しています。これからもマツダ独自の技術として、ロータリーエンジンの可能性を探求するために継続して研究開発を続けていきます。マツダのチャレンジ精神が生み出してきたロータリーエンジンの歴史は、これからもとどまることなく、未来へと走り続けていくのです。