ロードスター(1989年~)
第3章:『人馬一体』のこだわりと、割り切り
1970年代を境に、ライトウェイトスポーツカーの存在をあやうくさせた安全性能の追求は、〈ロードスター〉の開発においても、ライトウェイトスポーツカーの命である軽量化を保持しながら達成すべき大きな課題であった。時代を経て、ライトウェイトスポーツカー復活に威力を発揮したのは、コンピュータ解析技術の発達であった。また、〈ロードスター〉の開発責任者を務めたエンジニアが、車体設計の専門家であったのも偶然ではなかった。最新のコンピュータ解析を駆使し、今日求められる安全性を十分に充たした、軽量で高剛性の車体を設計することができたのである。
雨の多い日本では、それまで屋根を幌に頼るクルマは極めて少数派であったが、手動で開閉を行う幌をあえて採用したのは、「人馬一体」の走りにこだわった上で、割り切りの判断であった。また、2+2の4人乗りを加えず、2人乗りに割り切ったのも、小型軽量というライトウェイトスポーツカーの真髄にこだわったためだ。このように、「こだわるためにそぎ落とす」という決断をしていったのであった。
ダイレクトなドライブフィールの追求
エンジンは、あえてターボチャージャーなどの過給は使わず、自然吸気(NA:ナチュラル・アスピレーション)の1,600cc直列4気筒DOHC4バルブを選び、その一本に絞った。「人馬一体」の楽しさを伝えるのは、人を驚かせる大馬力や、先進的な制御装置の採用ではなかった。
一方で、エンジン内部の機械損失や摩擦抵抗などは極力低減し、アクセル操作に素直に反応し、回転の限界まで滑らかに吹け上がる壮快さを味わえるエンジンに仕立てていった。
シフトチェンジにおいては、的確な操作感覚を実現するため、トランスミッションとデファレンシャルを結合する『パワープラントフレーム』を装備した。これによる剛性感の向上は確かで、その後の〈ロードスター〉の進化においても欠くことのできない重要な技術要素となっている。
サスペンションには、潜在能力の高さを求め、4輪ダブルウィッシュボーン式を採用した。スポーツカーである以上、この選択をゆずるつもりは開発陣にさらさらなかった。エンジニアたちの「人馬一体」への強いこだわりは、ここでも発揮されたのであった。